一気読み確実!「教団X」の作者の最新作「あなたが消えた夜に」書評まとめ

小説「あなたが消えた夜に」の感想をまとめていきます。

この小説は「アメトーーク」にて「読書芸人」で紹介され、爆発的に売れている「教団X」の作者である中村文則の最新作である。

あらすじ

連続通り魔事件が発生し、その事件の捜査に臨む所轄の刑事である主人公と警察庁捜査一課の少し変わった女刑事。連続して起こる殺人事件を紐解いていくと明らかになる被害者と加害者の奇妙な接点。

事件の概要が明かされるとき、その深みにあなたはこの作者の恐ろしい才能を見ることになる。

書評

実は、僕はこの中村文則の大ファンである。

小説「何もかも憂鬱な夜に」では深い闇から光が差す場所までのコントラストを人間の価値観や人生観から物事の捉え方、その角度をいとも簡単に文章で表現した。(しかも恐ろしいほどに短い物語で)

廃人生活を経て、どん底まで沈み、そしてそこから浮上するに至る「きっかけ」を見つめた人間でないと書けないような解があり、この小説の主人公と同じようなことを考え苦しんでいた経験のある僕からするとまさに「どんぴしゃ」で言いたいことを小説にしてくれていた。

「銃」から続く「何か精神的な主柱を持ち歩く系」のシリーズも読み、この作者の世界観にどっぷり浸っていた。

彼の作品は冒頭でご紹介した「教団X」にたどり着くまでどこか仄暗い雰囲気が全編を通して漂っており、湿っけのある文体から簡単に言えば「とてつもなく暗い」小説が多い。

主人公はだいたいその精神世界の中でもがき苦しみ、過去と対峙し、身体的にもボロボロの状態で物語は進む。どんよりとした曇天の下、雨に打たれ這い蹲りながら真相にたどり着く。その姿に圧倒的に「生きる」ということを僕は感じ、そこに共感もした。

だが、今回の最新作「あなたが消えた夜に」は少し毛並みが違う。

主人公の所轄の刑事と捜査一課の女性刑事との掛け合いは正直ずっと見ていたくなるほど面白い掛け合いだ。

冒頭ですでにこの女性刑事の不思議ちゃんっぷりに嫌悪感を出す主人公に「え?!もっと殺伐とした感じじゃないの?」と意表を突かれる。

しかし、物語が転がり始めるとホラーサスペンスのような事実の連続。

その猟奇的な真相から我孫子 武丸の「殺戮にいたる病」に似た雰囲気を感じ、読み始めに予想していた展開とはまったく違うふうに転がっていく。

どこに着地するかわからないまま、また読み進める手が止まらない文字通り「一気読み」の小説だった。

この作者は確実にレベルを上げたと思う。初期の頃よりも格段に深く、さらに登場人物たちの会話ひとつとってもなんだか色気のある言葉の選択。

心情や生い立ち、その人間的歪みなど犯人、被害者、刑事にいたるまですごく繊細に表現されている。

この小説を読み終えた今、知人や友人に自信をもって紹介できると思っている。