小説「ラバーソウル」についての感想です。
愛の形は人の数だけある。
しかし、受け入れてくれる人がいて初めて成立するものばかりだ。
過度な愛情はやがて狂気を生み、妄想を生み、使命感を生む。
その混沌に取り付かれた者を人は「ストーカー」と呼ぶのかもしれない。
だがしかし、「ストーカー」と呼ばれる人の心は本当はピュアで人から蔑まれるようなものではないのかもしれない。
ただただ、受け入れてくれる人がいなかった。それだけの話なのかもしれない。
その作家、井上夢人
勉強不足なもので僕は彼の作品は今作「ラバーソウル」がはじめて読んだものでした。
本屋さんで文庫コーナーを練り歩いていたとき、678ページに渡る巨大で分厚い文庫本を目にした。
立ち止まった僕は裏のあらすじを読む。
なんだかピンとくるものがあって、その日購入する一冊に見事入り、今や僕の本棚を肥やしている。
さて、この井上夢人だが文書の構成上かなり読み手に伝わりやすく書いていたと思う。
情景も思い浮かべられたし、何よりストーカーの異常さ、気味の悪さが存分に発揮されていたんじゃないかと思う。
ただ、この手の話しを描くのなら世界観というかじめっとした雰囲気をもっと醸し出して欲しかったというのが本音である。
サスペンスなのかホラーなのか。
この曖昧で微妙な線を狙ってはいると思うがややサスペンスより。
あらすじ
洋楽の雑誌に記事を卸している主人公は外見が醜く、それについてコンプレックスを持っていた。
ある日、愛車のアメ車を撮影で使わせて欲しいと雑誌編集者から頼まれ、ついでに撮影を見学することに。
そこで起きた不慮の事故によりモデルが死んでしまう。
たまたま難を逃れたモデルの一人を彼は自宅へ送っていくよう言われ愛車にモデルの女を載せる。彼の人生上、はじめて異性と運転席と助手席という距離感で接することになる。
そこから物語は転がっていく。
書評
ストーカー小説としてはとても面白かったし、いい狂いっぷりでした。
そしてさらに読みやすく、細かい伏線などはないため、ざっくりと読み進められる。
気がつけば一気読みで最後まで走ってしまった。
しかし、最終的に思うのは678ページも果たして必要だったのか。
この物語のなかにはいくつかの殺人事件が起きる。
読み進めていくうちに読者はストーカーの恐ろしさ、気持ち悪さを実感することになるが同時に疑問も浮かび上がってくる。
「このままストレートに終わるのか?」
インタビューや自分語りの形式で物語は進行していくため、ミステリー小説が好きな人ならば察しがつきそうなものだ。
叙述トリックや真犯人の可能性を疑い出すだろう。
まぁ結局のところは最後まで読み進めればこの物語がどこで落としどころを持ってくるのか分かるわけだが。
最後まで読み終えて、僕が思ったのは「にしてはオチが弱すぎる。」でした。
大どんでん返しを持ってくるのならばもっと大胆にしてほしかったものだ。
さらに言うならば678ページもの文章量はいらない気がした。
読み返したり、思い出したりしてもいらないシーンが多すぎる。作者的には登場人物を増やし、真犯人を煙にまいておきたかったのかもしれないが特に重要な、または重要そうな伏線の貼り方をしていたわけでもなかったのでいらないシーンだと解釈した。
つまり、このスピード感でこの内容の濃さで400ページぐらいにまとめればこの小説はさらに面白かったんじゃないかと思った。
でも、まぁストーカーものの作品ってあまりないからそういう意味ではとても面白い作品だったんじゃないかと思う。