突然だが、僕は音楽が好きだ。
殊更ロックバンドには目がない。
あれは14歳、中学二年生の頃に出会ったラルクアンシエルというバンド。
僕の中で衝撃が走りアルバムを買う為にはじめてお小遣いを貯めさせたバンド。
当時、これがロックミュージックなのかと感心したものだったが、時は経ち、どうやらロックにもいろんな種類やジャンルがあるらしいと知り、とにかくいろんなバンドを聞き潰していた高校時代。
思えば僕の音楽感はこの頃にバックボーンが形成されていたのだろう。
さて、クソくだらねー前置きは置いといて、僕の人生を変えた音楽を書かせていただく。
つたない文章だが精一杯に伝えていく。
1.深夜12時
車を走らせていた。
助手席には当時付き合っていた彼女。
その日、僕らはブックオフに行き掘り出し物のCDを物色していた。
500円コーナーに乱雑に並ぶアルファベットの波をかき分け、バンド名、アルバムタイトル、何かしら頭の中にひっかかるキーワードを頼りに物色していた。
「S」の棚にきたとき、見慣れないジャケットのCDを見つける。
僕はどこかで覚えのあるバンド名だなんて思いながら買い物カゴに放り込んだ。
その日買ったCDをひとつずつ聞きながら、深夜12時に車は走る。
彼女とこのバンドはこうだね、ああだねなんて言いながら時折この街灯の明かりが強すぎて星があまり見えないんだよという会話も挟む。
途中コンビニに寄り、コーヒーでタバコをやる。
こういうときも、いや、いつも流れているかもしれないが頭の中には名前も思い出せないバンドの曲がうっすらと流れていたりする。
歌詞も思い出せないからハミングで小さくそれに合わせるのだけど、途中からなぜかベースラインを口ずさむようになる。
客観的に見たらすごく滑稽な場面だろうけど、脳内リピートというのは恐ろしく、自分の意思とは無関係に曲は流れ続ける。
彼女が運転を代わるというからそれに応じ、僕は助手席に座り、見慣れない左からのプレイヤー操作に新鮮さを感じながら、僕はブックオフで見つけたCDをプレイヤーに入れた。
2.時速60キロで流れる夜の世界
国道をひたすらまっすぐ走る。
あたりはもう、大型トラックぐらいしか走っておらず、田舎から繁華街へ続くその国道を僕らの車は走り続けた。
季節は真冬。
空気を入れ替えようと窓を少し開けると一瞬で車内がひんやりとする。
暖房はつけたままだったから、外の冷たい空気と、暖かい暖房の風に不思議な感覚に心が入っていく。
当時、僕は彼女が抱える心の闇から救う術を探していた。
ネット用語で言うならばメンヘラなのかな。
人の心の問題というのはとても難しい。
本人にしかその苦しみは分からないのに、分かってくれとせがむ。分からないならもういいと拗ねる。
分かろうというスタンスを維持したまま、どうやったら人の心が分かるかということへの答えが見つからないまま僕はその場その場をやり過ごした。
隣で運転する彼女は僕と会っているときは本当に楽しそうだ。僕も楽しい。それでいいじゃないか。
だけど、生活に追われ、暮らしに追われ、忙しさに追われるようになると、彼女のトラウマは再び彼女を襲う。
彼女自身が気がつかない方法で。
僕はなんとかしてやりたいと思いながらもその具体的な方法が見つからないまま時間だけが過ぎていく現状と、それでもまあまあ暮らしていけてると思ってしまう自分に腹が立ち、無力さに絶望し、一人の夜は悔しくて泣いた。
そんな風に泣く自分が情けなくて、そんな風に泣く自分の誠実さを見直して、とうとう心の持っていき方を見失ってしまっていた。
その夜、僕は彼女と過ごしながら、流れていく景色を眺めながら、くだらない会話に身を寄せ、曖昧な眠気と、横に彼女がいる安心感で心をいっぱいにしていた。
そんなカマくさい男を嘲笑うようにそのCDの一曲目は笑い声で始まった。
3.Maybe tomorrow
しゃがれたケリーの声。
僕はこんなボーカルの歌を聞いたことがなかった。
絡みつくように繰り返されるサビのフレーズは加速して、徐々にケリーの声は壊れていく。
心を鷲掴みにされるような感覚だった。
車内に会話は徐々に減っていき、お互い聞き入っているような、そんな時間。
2曲目の「Maybe Tomorrow」という曲のイントロが流れた瞬間、僕がずっと聞きたかった音楽はこれだと思った。
夜に合う曲。
それも、ムーディーな雰囲気のみではなく、夜に合うメッセージ性が欲しかった。
くたびれた街灯、流れる景色、遠くまで続く国道、工場地帯の空気が微かに残る車内、横には彼女。
しゃがれた声、シンプルなのに耳に馴染むギターの音色。
僕はこの曲が一発で大好きになった。
「きっと明日は」なんて意味だろうか。
アルバムの裏に書いてある曲のタイトルを見ながらそんあことを思ったことがある。
「きっと明日は」というのは明日に願いをかけたのではないと僕は直感的に思った。
これは、今日その一日を必死に生きて、それでもダメだった奴が、それでもうまくいかなかった奴が唯一許された希望であり、生きる為の条件で、このメッセージと相反する曲のメロディが僕はなんだかとても哀愁に満ちていて、そのギャップが心に残るのだろうと思った。
英語の歌詞なんてまるでわからないけど、歌詞なんてわからなくったって心の奥深くまでこのバンドの音楽は僕が生きる世界と簡単にマッチし、また感動とはすこし違う嫌味な感情を残していった。
次の日から、僕はこのバンドのアルバムを集めるのに奔走することになるが、それはまた別のお話。
最後に彼女が感動する僕を横目に遠慮がちに言った「汚い声だね」という言葉は、恐らく彼らへの褒め言葉だと受け取っておこう。
Stereophonics/You Gotta Go There to Come Back
ステレオフォニックス四作目のアルバムであり、全8作品中で一番、ボーカルのケリーの声がかっこいいアルバムです。
とはいえ、このバンドの作品はハズレなし。
どんどん進化する音楽性はその芯がブレることなく、ステレオフォニックスのままで有り続けています。
今も世界で一番大好きなバンドで、このアルバムは何回聞いたか分からないぐらいです。
もちろん捨て曲なし。
ぜひ一度、聞いてみてください。
最後に僕が痺れたこのアルバムの中にある曲を貼っておきます。
気になった方は絶対に買ったほうがいいです!!
こちらのアルバムジャケットリンクからアルバム購入できます。
ベストアルバムも出ています。こちらにも上記「Maybe Tomorrow」は収録されています。
あとがき
ブラックな男なら絶対に気に入るバンドです。
正直、ガキには分からない渋さがあります。
このバンドに出会えてよかった!ブックオフで出会えてよかった!
ライブ行きてー